エステ級の本格ケアをおうちで…市場も右肩上がり
みなさんは美顔器に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか。ひと昔前までは、あまり効果がないとか、気休め程度だと思う人も多かった印象ですが、いまや「多少高くても、いい美顔器がほしい」という声もよく聞くようになり、女性だけでなく男性からも高い関心を集めています。実際、市場調査会社の富士経済によると美容・健康家電/雑貨の国内市場は右肩上がりに増え続けており、2025年には2022年比15%増の4,220億円と予測しています。
(※参考:https://dempa-digital.com/article/522753)
ではなぜ美容家電が近年注目を集め続けているのでしょうか。大きな要因として挙げられるのは、SNSの普及によるホームエステ意識の向上です。自宅でできる美容ケアのハウツーなど最新美容事情がSNSで手軽に入手できたり、 “美のカリスマ”と呼ばれるモデルやタレントが使っているものを購入したりなど、美容家電の可能性に期待する人が増えているのです。
実際、美容技術の向上により、エステサロンなどで使われている業務用美容機器を家庭用に改良した美容家電も登場しています。エステ級の本格ケアができるとし、効果が実感しやすいものが増えていることも人気を後押し。さらにコロナ禍による外出自粛で、従来エステに通っていた人たちも、ホームエステを行うようになり、高額な美顔器も売れるようになったといわれています。筆者が先日、美容家電の展示会に行ったときも、20万円近い美容家電が多く紹介されていましたが、メーカーの担当者は「ふだんエステを利用する客は躊躇なく買ってくれる」と話していました。
そしてコロナ禍は、今まで美容家電を使ったことがない人たちも、手に取るきっかけになりました。自分の時間が増えたことで、自分磨きを始めた人もいれば、マスク生活で口まわりのたるみが気になった人もいます。また今まで美容に興味がなかった男性が、ビデオミーティングでカメラに映る自分の顔が気になり、美容家電でケアを始めるケースも。特に最近は脱毛やプチ整形を始めとした美容医療を受ける人が増えるなど、美容ケアにお金をかけることは特別なことではない意識の高まりも、美容家電人気を後押ししています。
エレクトロポレーション技術、ラジオ波…注目されている美容テックとは?
では具体的にどんな美容家電が人気でどんなテックが搭載されているのでしょうか。定番となっているのが、スチーマーやイオン導入器です。イオン導入器とは、プラスとプラスなど同じ電極同士が反発しあったり、異なる電極が引き合う性質を利用し、化粧水の美容成分を肌の奥まで浸透させたり、毛穴の汚れを引き出す働きをするもの。また、コラーゲンやヒアルロン酸といった美容によいとされる成分の分子は大きく、肌に浸透しにくいことから、近年は一時的に肌の構造を緩ませ、高分子も導入しやすくなるエレクトロポレーション技術を搭載した機種も増えています。
ラジオ波を使ったRF美顔器も、定番人気となっている美容家電の1つです。RFは「ラジオ波」を指し、周波数の高い電磁波をお肌に流すことでジュール熱が発生。肌の奥を温め、ハリをもたらしてくれるといった効果が期待できます。こちらも、より肌の奥までジュール熱を届けるとするもの、また同時に電気刺激を与えるものなど、付加機能が搭載されたものが増えています。
色の薄い産毛にも対応した脱毛器
また、コロナ禍で脱毛サロンに通えなくなった人たちがこぞって注目したのが、脱毛器です。脱毛器は美容家電業界では「光美容器」などの名前で販売されており、黒い色に熱を与える光を照射することで、毛穴にダメージを与えて毛を生えにくくしてくれます。永久脱毛できるわけではありませんが、毛が徐々に生えにくくなり、いずれは2ヶ月に1回ペースのケアで脱毛したような見た目に。また脱毛で使用される光は、美容効果もあるとされ、脱毛と同時に美容をうたう製品も多く登場しています。
近年の製品の特徴としては、従来のフラッシュとは異なる働きを持つ光を使用することで、従来脱毛効果が得られないとしてきた、色の薄い産毛も脱毛できるとするものが出てきています。また強い光で痛みを感じる場合がありますが、フラッシュと同時に冷却プレートで冷やすことで痛みを感じにくくしてくれるものもあります。
EMS美顔器は一つのジャンルを確立
そしてコロナ禍で多くの人が関心を寄せた美容家電といえば、やはりEMS美顔器でしょう。マスクによる顔のたるみが気になるという人を中心に人気を集め、新製品も続々登場しました。火付け役となったのは、GMコーポレーションの「デンキバリブラシ」。ブラシで頭皮や顔なでるだけで、ピンの先端から出るピリピリした低周波が肌表面を引き締め、筋トレをしているような効果が得られるとし、爆発的に売れました。その後、同様の製品が続々登場し、こちらも一ジャンルを確立しています。
今後はLED美容に注目
ではこれからの美顔器はどのように進化していくのでしょう。特に最近顕著に見られるのが、多機能型美顔器です。従来の多機能型といえば、1台に複数の機能が搭載されているものが多く、操作が複雑で使いこなせないパターンも多くありました。その点、最新の多機能型は、たとえば「1度でEMS、RF、LED照射」など、同時出力できるものが増えており、一度でトータルケアが可能になっています。当然値段も跳ね上がりますが、タイパ意識の向上から、高くても売れ行きは好調のようです。
さらにAI技術の活用にも注目が集まっています。美容に対する悩みは個々で異なるため、個々に合わせたアプローチでケアするのが理想ですが、美容家電は画一化された機能の中で、出力やモードを変えて使うしかありません。しかし近年は、AI技術を搭載した美容家電も登場。AIが肌分析しておすすめのケアを行ってくれるAIミラーのほか、ヤーマンの美顔器は、愛用している化粧水の情報を登録すれば、その成分の効果を最も引き出してくれる出力を自動で設定してくれます。
そして近年、新たに注目されているのがLED 美容の可能性です。LED美容とは、クリニックなどではLED治療として用いられている技術を活用したもの。肌に高輝度LEDを照射することで美容においてもさまざまな効果が期待できるとされているものです。LED 美容の導入は特に海外で進んでおり、LED型マスクや頭皮ケア用ヘルメットなどが登場していますが、日本ではあくまで美顔器の付加機能として搭載されることが多いものでした。
しかし近年は、日本でもLED美容を本格的に取り入れた美容家電が続々登場。LEDは肌への負担が極めて少なく、赤色や黄色、青色など色(波長)によってさまざまな効果が期待できることから、本格参入が進み始めています。ヤーマンが昨年11月にオープンした「YA-MAN the store GINZA」では、5,148個のLEDを全身に浴びられる「美肌光ステーション」を体験できるほか、「ブルーグリーンマスク」110,000円を発売。またRefaシリーズで知られるMTGも、5月に中国先行発売を発表するなど勢いを増しています。マスク型LED美顔器は、顔に当てるだけでケアできるので、ながら美容が人気の昨今、引き続き注目される分野と予想しています。
以上のように美容家電市場は、美容技術の向上と美容意識の高まりとの相乗効果で、ますます活性化しています。しかし効果の実感が得やすいものも増えている一方、人気美容家電を模倣したものがネット上に溢れ、玉石混合の様相を呈しているのも事実。購入する際は、信頼できるメーカーか、安すぎたり高すぎたりしないかを確認し、高額家電が使い続けられるか不安な時は、レンタルを試してみるのもいいかもしれません。
〈著者〉
田中真紀子
家電ライター。早稲田大学卒業後、損害保険会社を経て、地域情報紙に転職。その後フリーとなり、住まいや家事など暮らしにまつわる記事を幅広く執筆。
出産を経て、子育てと仕事の両立に悩む中、家事をラクにしてくれる白物家電、エステに行けなくても自宅美容できる美容家電に魅了され、家電専門ライターに。現在は雑誌、webにて執筆するほか、専門家として記事監修、企業コンサルタント、アドバイザー業務もこなし、テレビ・ラジオ出演も多数こなす。
これまで執筆や監修に携わった家電数は1500近くに及び、自宅でも常に多数の最新家電を使用しながら、生活者目線で情報を発信している。
公式サイト:https://makiko-beautifullife.com/