植物由来の素材やリサイクル素材で作る“高機能なキッチンスポンジ”
はじめにご紹介するのは、キッチンスポンジの事例から。スリーエム ジャパン株式会社が製造・販売するスコッチ・ブライト ブランドは、上質かつ機能的な台所スポンジとして有名ですが、この中でもリサイクル素材や植物由来の素材を使用した「グリーナークリーン」シリーズには、サステナビリティを重視しながらも高い機能性を実現するための独自技術が採用されています。
同シリーズは、キッチンスポンジとしての機能性を犠牲にすることなく、不織布、研磨剤、接着・接合などにおいて高度な技術を駆使して開発され、アメリカでは2009年から、日本では2022年から販売が始まっています。
製品を細かく見ていくと、「セルローススポンジたわし」には、不織布に100%再生プラスチックを、スポンジにはパルプ由来の天然繊維素からできたセルロースを使用。ハードな汚れを落とすタイプには、高い汚れ落とし性能を発揮するように、研磨材の選定や研磨材を均一に繊維に付着させる技術が採用されています。また、高温や水に晒されても剥がれず、かつ握っても硬くなり過ぎない接着剤技術によって耐久性と風合いの両立が実現していると言います。
PLAネットスポンジ、PLAメッシュネットには、ポリ乳酸樹脂という植物由来のでんぷんや糖を原料にして製造されたバイオマスプラスチックを採用。
従来のエコ製品と言えば、やや使いにくい印象を抱くものが多かったことは否めません。今回これらのスポンジを実際に使ってみて実感したのは、使用時のストレスは全くなく、むしろ使うたびに愛着がわいてくるような、モチベーション向上にも寄与する効果があること。環境配慮によって日常生活で我慢を強いられる時代は終わっているのかもしれません。
発酵技術を応用して誕生した“未来の洗浄剤”
続いては、スポンジのお供である「先進的な洗剤」のご紹介。洗剤、消毒剤、食品などの開発・製造・販売を手がけるサラヤ株式会社が、世界で初めて「バイオサーファクタント」という天然界面活性剤の工業化に成功した事例です。同社は発酵技術を応用し、油を分解する天然界面活性成分「ソホロ」を安定的に作り出すことに成功しました。
ソホロは植物油(パーム油)と糖を栄養にして、天然酵母が発酵することによって生みだされた天然成分であり、肌へのやさしさに加え、生分解性に優れており排水後はすばやく地球にかえる“未来の洗浄剤”と言われています。このソホロの高い安全性と洗浄力、低起泡性によるすすぎ性の良さ、そして高い生分解性を兼ね備えた未来の洗浄剤として開発されたのが、「ハッピーエレファント」シリーズ。同ブランドは2012年に誕生し、2022年に泡持ちが向上してリニューアルされています。
このソホロには天然の界面活性成分として、洗浄剤以外の機能があり、化粧品や、再生医療における細胞保存液への実用化の検証が行われています。
減塩料理がおいしく味わえる「スプーン」
最後は、食卓での食事には欠かせない“画期的なスプーン”のご紹介です。キリンホールディングス株式会社が、ヘルスサイエンス領域の新規事業として開発した「エレキソルト スプーン」で、いつものお箸やレンゲをこのスプーンに替えるだけで、塩分を控えたスープやカレーがおいしく楽しめるという商品。微弱な電流の力で、塩味やうま味などの味わいを増強させることによって減塩食をおいしく楽しむことが期待できます。最大の強みは、様々な減塩手法と組み合わせて用いることができ、スプーンを変えるだけで活用できる汎用性にあります。
この開発背景にあるのは、日本人の塩分摂りすぎ問題。20歳以上の日本人における1日あたりの食塩摂取量は10.1グラム。WHOが掲げる食塩摂取推奨量5.0グラムと比較すると非常に多いことが問題視され、厚労省が食塩の過剰摂取が日本人の最も重要な栄養課題と掲げている状況に。
同社は、明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明教授が研究する「塩化ナトリウムに頼らず電気刺激で味を再現する技術」を起点として共同研究を開始。そして2024年5月20日から、減塩食品の塩味を約1.5倍に増強させる独自の電流波形の技術を搭載した食器型デバイス「エレキソルト スプーン」の予約・抽選販売を公式オンラインストアではじめました。
このスプーンは、初回200台というごくごく限られた商品数であることや、19,800円という価格にやや距離感を感じる人もいるに違いありません。また体感効果に個人差があったり、食品によって効果を体感しづらいものがあるようで、今後の技術改良や量産化に大きな期待が寄せられています。
家庭内の身近なアイテムに注目してみることは有意義で、それらにテクノロジーの進化を上手に取り入れることができれば、これまで以上に日常生活が豊かになるかもしれません。皆さんのルーティンに登場するものを再点検してみるのはいかがでしょうか?
<著者>
スギアカツキ
食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。